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【M&A事例】民事再生企業の可能性 ~その3~

M&A事例

今回が全3回の最終回となります。前回は民事再生企業をM&Aする上で、再生の可能性についてどのように見極めていくのか、そのプロセスを紹介しました。今回は、いよいよM&A事例としての核である再生へ向けた具体的な取り組みについて触れたいと思います。

「再生へ向けたPMI」

さて作成したPMIシナリオに沿って改善を進めていくわけですが、当社PMIでは、3つの分野を短期と長期に分けて同時並行で進めていくようにしています。長期的な取り組みは正解かどうかの判定がすぐには出ません。この場では短期的な取り組みにフォーカスして紹介したいと思います。

3つの分野とは、財務、組織、業務を指します。

最初は財務です。

ビジネスは財務が安定しない限り、何も始まりません。改革を進める上でキャッシュフローの改善は急務です。まず短期的には「適切な販売価格(値上げ)」「不要なコスト削減」の2つです。即時効果の高いこの2つを最初に実行することで次の打ち手が広がります。販売価格を分析すると原材料とエネルギー資源の高騰が明らかに販売価格に転嫁出ていない状況が見て取れます。ここ数年は仕入価格が上昇するたびにその一部を負担し続けているような状態で、それでは自分たちの製品に価値がないと言っているようなものです。

値上げに当たっては材料原価だけでなく、掛かる燃料費/物流費、そして製造効率性を考慮し、最後に取引先との総取引量から得られる利益を踏まえた価格決定表をベースに検討します。可能な限り平等な価格設定を実現し、お客様に丁寧な説明をするとともに、社会全体で取り組んでいくスタンスが重要と考えています。

コスト削減については、これは中小企業あるあるなのですが、無知が引き起こす無駄がたくさんありました。特にIT分野に至っては急速に進む変化の時代についていけていないことに起因し、会計システム、販売システム、ホームページ制作などに数倍から数十倍のコストをかけてしまっていました。さらにはFAXコピープリンタ複合機のリース、車両の購入など全面的に見直すことで、年間600万円以上のコストダウンが可能となりました。これらは相見積り等でプライスダウンをはかったわけではなく、自社にとってあきらかに不要な機能を知らず知らずのうちに購入させられてしまっている、あるいは有効な機能を使いこなせないのに購入してしまっている、そういったアンマッチを排除したにすぎません。

続いて、組織改善です。

会社都合と個人都合があった場合、優先しなければならないのは会社都合です。個人の都合を無視するわけではありませんが、会社の都合よりも個人の都合を優先してしまうと、そこで不平等が発生し、さらにその不平等を埋めるために、さらなる歪みが生まれます。あるべき姿に戻すため、現在のあるべき組織図を描き、採用計画につなげていきます。第一弾の求人は開始しています。資金繰りがうまくいかない中で無理な組織体制で歪になってしまった一人ひとりの労働環境を整えていくことで、全社が一体となって次のフェーズに進むことが出来ると考えています。

最後に業務改善です。

製麺所の業務は大きく営業、事務、物流、製造の4つに分けられ、それぞれで改善することももちろんですが、大事なのは業務間の接続部分です。業務は単独で存在しているわけではなく、連動して機能しているわけです。それにも関わらず、互いの部署は相手の部署のことを知ろうとしない、知る必要がないと考えていることが非常に多く、その結果、お互いが相手の都合だと勝手に判断して、やる必要もない仕事を知らず知らずのうちにやってしまっているのです。比留間製麺という会社でもそういった点が多く見受けられます。

業務の改善をする上で最初にやらなければならないのは、データの整備です。得意先、仕入先、仕入品、販売品、これらのデータが社内での共通用語であるにもかかわらず、ルールがなく無秩序にシステム登録されていき、同じ品目が別名で複数に分かれて登録されていたり、製品規格を知っているのは製造だけで、事務や物流は知る由もなかったりの状態でした。命名規則をしっかりと整備することで改善点が見えてきます。また仕入先と仕入品に至ってはデータ管理されておらず、原材料の仕入数の動きや値上げによるコストインパクトを即時に把握できない状態です。適切な価格改定が出来ていなかった最たる原因と言えます。

他にも様々な種類の納品書、請求書が得意先によって使い分けられていて、販売システムにてそれぞれ個別に対応していました。そこで1つ質問をしてみました。

「なぜこの納品書(請求書)でないと得意先は困るのですか?」

「もともとそうだったからです。」

理由は「もともと」で、そうでないと得意先が困る理由、あるいはそうすることで得意先が喜ぶ理由はなかったのです。事務に限らず、自分たちのしている仕事がどのように役立っているのか、なぜ必要なのか、その本質を知らずに仕事をしているケースが世の中には横行しています。今回の納品書、請求書については、実に8割以上の得意先において特別なこだわりがなく、統一された納品書様式、請求書様式に変更してもらうことに成功し、業務のシンプル化、効率化につながっています。

財務、組織、業務、PMIではこの3つをまずは短期的に改善し、長期的なシナジーを起こす土台を形成することを第一の目的としています。

これまで3回にわたって民事再生企業の可能性について触れてきましたが、この場で記載していることに目新しいものはありません。当たり前のことを精緻に徹底して1つ1つ実行する、これが簡単なようで実は難しい、それが大成食品株式会社の強みとなっています。それと、もしかしたらここまで読んでいただいた方々の中には、M&Aのハイライトであるシナジー(相乗効果)に興味をもたれていた方がいたかもしれません。もちろんシナジーについての構想も存在しているのですが、そちらについては時期が来ましたらお知らせする予定でおりますので、この場はご容赦いただければ幸いです。(おわり)

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